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事業承継・・・完結

連日に渡り鈴印の事業承継について書いて参りましたが

事業承継・・・

事業承継・・・その2

事業承継・・・その3


私の事業承継は、親父が入院し、社長業の承継
母が入院し、経営業の承継
そんな流れで半ば強制的にやらざるを得ない状況から始まりました。




共に無事退院し、なんとなく私がお店の中心になりつつも、また本来の活性を取り戻す雰囲気になって参りました。


しかしそんなある日、最悪の事実が告げられたのです。

親父が以前手術をして病巣を取り除いていた物の肺への転移が見つかったのです。
それからはそのための治療の日々。
しかしどんな抗がん剤をもってしても全く効果がなく、次第に痩せていく親父。
そしてそれを半身がよく動かない状態で看病する母。


そんなどうあがいてもどうする事も出来ない状況、私は現実から目をそらすように仕事に打ち込みました。



 
しかし最悪の事態はやってきます。 

ある日突然、親父が私にこんな話をしました。

「ちょっといいか、大事な話がある。あんま良い話じゃないんだけど。俺はいよいよダメらしい。長くても半年はもたないそうだ。そうするとお前の結婚式には出られなくなる。こんな大事な時なのに、余計な事に気を紛らわせて本当申し訳ない。でも俺は終わるとは思っていない。だってお前の結婚式には出なくちゃなんねーからな。ただちょっと迷惑を掛けるけどよろしく頼むわ。以上!」


親父のこの時の壮絶な覚悟とは裏腹に、穏やかな口調で話していた事を思うと今でも胸が熱くなります。

 
 
それから間もなくあれほど嫌がってた病院に、親父自ら向かいました。 




私はこの時あまりに突然の現実感のなさ過ぎる状況を理解できず、そしてその事実から逃げるように「もし親父がいなかったらどうしても1つだけ困る事がある、それは鈴印オリジナル書体”落款風実印”の文字が書けない」そんな事を考えておりました。
 
鈴印の命とも言える「版下」
これが判を彫る全ての設計図になるのですが、それまでは全て親父が書いておりました。
他の書体は職人時代から私も練習していたので何とかなりましたが、これだけは親父のオリジナル。
とにかく言葉では教えてくれない親父でしたから、詳しく聞くタイミングもなく。
鈴印においては最も人気のある商品の1つですから、何とかしなくちゃならない。
でもこんな状態の親父に今更聞けない・・・

見よう見まねで書いてはみるのですが、どうしても上手くいかない・・・
自分で書いたどうにもならない1枚の版下を眺めながら「これじゃ商品にならない」
そんな絶望にも近い想いに包まれていると、病床の親父から1枚の「版下」が届きました。
こんなメモと共に

「よかったら参考にして下さい。余計なお世話だったらゴメンネ」

 
そうか!そうだったのか!!!
それにしても、なんで俺が悩んでいた事が分かったんだ?

その渾身の一枚には、答えの全てが凝縮されておりました。
ここでもまた自分で考え判断し、それでも分からず悩むからこそ答えが分かった時に本当に理解できる、そんな親父の指導スタイルが貫かれていたのです。

そしてそれまでと同じよう、親父が書いた版下を元に私が彫り、それを押した物を親父に見てもらいOKが出て初めて完成になる、それに向けてそれこそ必死になって彫り上げました。


親父と私の関係は親子というより師匠と弟子でした。
ほとんど会話はなく、やり取りをするのはその紙一枚でした。
だからそれを見るだけでお互いの気分が乗ってるか乗ってないか、そして体調の善し悪しまで全て分かりました。
作品は嘘をつきません。 


その最後の一枚は、恐ろしいまでの緊張感のある作品でした。
そして私はこの一枚で、これから訪れる事実を悟りました。


その時の一枚がこちらです。

17

親父の書いた版下、そしてその下に添削してもらうよう私が彫って押した印影。


残念ながらこの渾身の1本は、結局親父に見てもらう事はできませんでした・・・
しかし最後の最後で私に全てを伝えてくれました。 



普段はよく喋るのに、肝心な事は決して多くを語ることなく、背中だけで示す親父でした。
「自分で考えろ」
私の両親は昔からそうでした。





鈴印の事業承継は本当突然やってきました。
でもその時にひたすら考える事は、それまで当たり前に親父や母がやってきた事。
つまり日々の積み重ねが自然と承継になっていたのですね。
もし承継の事で悩まれてる親御さんがいらっしゃるなら、生意気ながら私はこう申し上げます。
多分親が思うより、子は親の背中・生き様を見ています。
そして承継して始めて、親の偉大さを知ります。
だから細かいルールやテクニックを伝えるより、大局つまりは会社の理念、社長の考え方、そして生き様を伝える事こそが最も重要な気が致します。




最期まで頑なまでに自分のスタイルを貫き通した親父の生き様は、常に強烈な芯が通ってました。
その理由を考えると、そういえば親父は以前こんな事を言っておりました。

「職人の技術ってのはな、教わって理解するモンじゃない、盗むモンだ。俺が修行してた時、師匠がやり方なんて教えてくれないんだよ。でもこっそり師匠がクルッと刃物を回したのを盗み見た時、あの時全てが分かってな。それが分かった時は、まるで自分で見つけたみたいで本当嬉しくてな〜。未だに忘れられないよ」







あとがき

そういえば結局親父には最後まで褒められませんでした。
でも一度だけ意外な形で私の耳に届きました。
それは親父がこの世を去り2度目のお盆の時でした。


お経を読んで頂いた後、一緒にお酒を飲んでいると突然思い出した様に住職がおっしゃいました。
「そういえばお父さんが亡くなるちょっと前一緒にお酒を飲んでいたんですが、その時私にこんな事を言ってたんですよ。
『あいつは本当に上手くなりました。俺なんか超えたかもしれないです。もう技術的にあいつに教えることは何もありませんよ。でも、本人には黙ってて下さいね。あいつ褒めるとすぐ調子に乗りますから・・・』
って嬉しそうに言ってたんですよ。」


この言葉は今でも、迷った時の私の心の拠り所です。

 


 

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