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竹のハンコはこうやって彫ります!

  1. 手彫りと手書き
  2. 2904 view

竹印(ちくいん)ってご存知ですか?
別名、竹根印(ちっこんいん)などとも呼ばれる、竹の節の部分を利用した印章です。
2014年10月30日に書いたブログですが、ショッピングサイト掲載に伴い、2021年6月25日にリライトしました。

竹印の特徴

「竹根印」もしくは「竹印(ちくいん)」などと呼ばれる、非常に珍しい印材です。
しかも特に厳選された鈴印製は細部まで徹底してこだわっていますので、まずはその特徴からご紹介していきますね。

 

中国産の芯まで埋まった竹を使い、同じ形が2つとない個性

特殊な竹の形状ですが、そもそも竹って節と節の間が空洞になってますよね?
それが竹印にする材料は、空洞部分が埋まっている竹を使用しています。
ちなみにこちらは竹の原産国の中国産になりますから、品質は非常に優れています。

また一般的な丸や四角に対して、天然の竹のカタチであることが最大の特徴です。
一般的な印材って、直径や長さの規格に合わせて丸や四角に削り出していきます。
対して竹印は、竹を輪切りにしたそのままの形を利用しているため、同じものが2つとしてないんです。

印鑑は基本的に同じものがあってはいけませんが、これなら明らかに他と違い、正真正銘の唯一無二です。
細長くスタイリッシュなカタチだったり、丸に近く重みを感じるカタチだったりと千差万別。
お好みでカタチを選べるのも、大きな特徴です。

 

繊維が縦に荒いため、味わいのある線が出せる

水牛は象牙などに彫られた印の特徴は、切れ味鋭い滑らかな線です。
これは印材の性質と彫り方に関係していて、通常の水牛や象牙などは繊維が細かく固く密度が高いため、刃物が滑らかに走ります。
そのためキレッキレな線に仕上げることができます。

対して竹印は繊維が荒いんですね。
しかも竹の特徴でもある`しなり`が強いため、刃物が逃げます。
そのため、落款などにみられる、ガタガタとして味わいのある表現が出しやすいのです。

また印面には、黒い点々が多数見受けられます。
これは自然になったわけではなく、意図的に焼いて黒くしています。
その理由は、焼いて水分が入らないようにするためです。
竹は生命力が強いため、放っておくと成長して変形してしまうそうです。
そのためきちんと乾燥させ、印面を焼き、漆を塗ることで変形を止めています。

 

彫刻機で彫れない

いわゆる激安ネット通販などでは、実印などもこうした彫刻機で彫っている場合も多いです。
早く安く30分で発送することが可能ですが、同じものが簡単に量産できます。
ただこの彫刻機には制限があって、丸印と角印にしか対応できないんです。
印鑑って外側に、同じ形で丸や四角の枠がありますよね?
あれに対応するためには、規格のカタチの必要があります。

対して竹印は、1つ1つカタチが違います。
そのため彫刻機では、枠を作ることができません。
つまり彫れない。
そして手彫りでしか対応できない=唯一無二です。

 

漆塗り加工をしている

この加工は鈴印の特注です。
他店様でも竹印を販売されていますが、鈴印のモノはちょっと違います。

一番の特徴は表面の艶です。
一般に柘植の材料などにも艶加工がされていますが、それらは全てニスです。
ニスは乾燥によって剥がれたりヒビが入る可能性もあるんですけど、対してこちらは漆が塗られています。
漆を薄く何度も繰り返し重ね塗りすることで、このクオリティを実現しています。
また一般的な竹印の多くは、漆はもちろんのことニス塗りなどもなく、バフをかける程度、もしくはそのままの状態での販売となっています。

こちらが漆を使っている理由として、古い印材なので憶測になりますが、中国から輸出する際の防虫と、ニスとは異なる高級な艶感の演出のためと思われます。
いずれにしても現在メーカーとして漆加工に対応してくれるところはなく、こちらも残念ながら現時点では鈴印の在庫を残すのみだそうです。

 

実印登録もできる

これは実は私も意外でした。
でも実印登録は可能です。

根拠としては、過去にお客様からご注文の際にお問い合わせをいただき、宇都宮市役所に確認したところ問題なしと。
そのためご購入いただき、無事登録も完了できたとのご報告もいただいたからです。

実印に登録できるという事は当然、銀行印でも可能ですので、落款用だけでなく登録印としてもご使用いただくことが可能です。
驚かれること間違いなしですね。

 

竹印彫刻全工程

前置きが長くなりましたが、本題に

入りたいと思います。
落款印としてご使用、つまり登録印ではないため、ご快諾いただきましたので掲載させていただきます。

 

カーボン紙で雁皮紙に竹の形を転写します

竹印製作は完全にハンドメイドです。
そのため・・・
文字を書いて→逆さまに転写して→彫る
という工程を経る必要があります。

そして最初の工程は、1つ1つ異なる竹の印面の形状をトレースする必要があります。
また転写するために必要な雁皮紙(がんぴし)と呼ばれる紙を使用するため、ここでは雁皮紙とカーボン紙を利用します。

まずは上記写真のように、雁皮紙を下に敷き、カーボン紙を重ね、その上から竹印を押し付けます。
カーボンが写るほど、ある程度強く押し付ける必要がありますが、グリグリ回すと印面の外側の縁まで干渉してしまうので、とにかく平坦に強く押し付けます。

竹の形を取り出すことができました。

 

雁皮紙に文字を書きます

「襲」

直接印面に筆で書く職人さんもいますが、私の場合は最初に目安となる罫線を引き、その後鉛筆で下書きをします。
手間はかかるんですけど、一度正しい向きで書くため、より美しい印に仕上げられるからですね。
そして次に本番の墨入れです。


昔撮った写真なんで、ピントとか合ってませんけどご容赦ください、、、汗

この一連の流れを「字入れ」と呼び、完成です。

 

竹印に転写する前の準備

全ての印章製作に共通しますが、最初に印面を極限まで平らにします。
印面が凸凹していては、どれだけ綺麗に彫れても写らなくなってしまいますからね。

竹印の場合、表面に漆がコーティングがされていますし、若干の歪みもあるので必須になります。
これは「木賊(とくさ)」と呼ばれるサンドペーパーみたいなザラザラした紙を使用します。

次に印面に朱色の墨、朱墨を塗っていきます。

印面に直ですと、転写した文字が非常に見にくんです。
こうすることで朱の背景に、この後転写する墨黒のコントラストで見やすくなります。
これで材料の下準備は完成です。

 

転写します

ご存知のように印章は鏡像させて文字を彫ります。
これもあるあるなんですけど、自分で彫った印を、捺したら逆向きだったなんて。
なので上記で、捺した時の向きで書いた雁皮紙の上から、印材を重ねます。

次に雁皮紙の余った四方を、印材に巻きつけます。
ずれないように慎重に慎重に。
雁皮紙も強く引っ張ると破れてしまいますので、優しく慎重に引っ張ります。
写真では分かりませんが、手で持っている部分に水をつけて、紙が水に張り付く性質を利用して固定してあります。

そしてここからが最も神経を使うところ。
転写の方法は

  1. 雁皮紙の印面部分の全面に、均等に水を付ける
  2. 少し時間を置いて馴染ませる
  3. 上からティッシュを被せ、馴染んだ余計な水分を取る
  4. 上から擦りつける、もしくは叩きつける

以上の工程を経ますが、水の分量を間違えると文字が滲んで広がってしまい失敗です。
なので慎重に慎重に・・・

失敗♡

水分量が多すぎため、最初に墨で書いた文字が滲んでしまいました。
これでは鮮明な線が見えません。
ではこの場合、どう対処するかと言いますと・・・
最初からやり直し♡

ただ全く同じのもやりたくないでし、こんな時はいつもこう考えるようにしています。
「もっと良い文字があるから失敗したんだ!」って。
さっさと気を取り直し、一から文字を調べ直します。
すると・・・
「あるじゃん!もっといいのが」

 

やり直し

方法は一緒なんで字入れ完成の写真だけ見てください。
先ほどと同じ「襲」の文字ですが、上のいかにも襲うぞ!って雰囲気から、だいぶ優しい印象に変わりました。

先程の失敗を考慮し、再度挑戦。

先程の悪い意味で瑞々しかったのと比べると、明らかに文字がくっきり写っているのが分かります。
いい感じですね。
適量の水分量の上からティッシュを重ね、水分を吸うことで揮発させるイメージです。

この揮発しているタイミングで、上から角印の頭の部分で叩きます。

角印がない場合は木槌を使ったり、また人によっては爪で擦る方もいます。
いずれにしても墨を印面に転写すべく、ある程度強い力で押し付ける必要があります。

水の量、雁皮紙への水の馴染ませ方、テッシュで吸い取るタイミング、その後の叩きつけが完璧に行えると、雁皮紙が印面に張り付きます。
ここで強い引っ掛かりがあれば、成功です。

見事に張り付いてますね。
もうこの時点で成功です。
引き続き、慎重に剥がします。

見えてきました。
かなりしっかり写っていますね。

完璧です。

 

彫刻作業

これから彫っていきますが、ここでは密かにに機械の力も借ります。
もちろんパソコン連動の彫刻機は使えませんので、手動の彫刻機。
歯医者さんの歯を削る機械に近い、回転する針で彫っていきます。

まずは荒彫りですから、ざっくりと彫ります。

まだ途中ですが、最終的には墨黒の部分以外を、全て彫りあげます。

次に、最終仕上げの木賊をかけ、墨を打ち、仕上げの作業に入ります。
途中で気づいたのですが、このあと猛烈に集中してしまい、写真を撮るのを・・・
忘れちゃいました♡

 

印影

こんな感じで仕上がりました。

今回のご依頼主は若い女性でした。
なのになぜ「襲」なのかは以下の「鈴印の大切なお客様」でご説明したいと思いますが、ご依頼の際に1つだけご要望がありました。
それは「なるべく優しいイメージにしてもらいたい」だったんです。
それが今回、途中からやり直した一番の理由でした。だって最初のだと・・・
襲う気満々♡

なので再度やり直し、優しいイメージを残すためにあえて印章の枠も「♡」っぽいイメージで女性的な雰囲気を残しつつ、文字はあまり柔らか過ぎない凛とした仕上がりになりました。

 

最後に

以上が竹印の特徴と、製作工程になります。
結構大変なんです。

またリライトするにあたり改めて詳しく調べてみたんですが、こちらの竹印、同じクオリティの品は残念ながらもう新たに入手できないことが分かりました。
上記でも申し上げました通り、漆塗りの竹印自体珍しく、また現在は中国からの輸入もないそうです。
もちろん今後国産の竹で作ることは可能ですが、漆加工を初め、竹の質に至るまで、鈴印在庫13本のクオリティには到底及びません。

そんな残りわずかになってしまった竹印ですが、この度ショッピングサイトに掲載させていただきました。
商品の購入並びに、個別の詳細は以下のページをご覧ください。

 

鈴印

〜印を通してお客様の価値を高めたい〜

鈴木延之
代表取締役:株式会社鈴印

1974年生まれ。
A型Rh(+)

1932年創業、有限会社鈴木印舗3代目にして、現プレミアム印章専門店SUZUIN代表取締役。専門店として、印章(はんこ)を中心としたブログを毎日発信。本業は印章を彫る一級印章彫刻技能士。
ブログを書き出したきっかけは、私の親父が店頭で全てのお客様に熱く語っていた印章の価値や役割そして物語を、そして情報が散見する中で印章の正しい知識を、少しでも多くのみなさまに知っていただきたいから・・・
だったのに、たまに内容がその本流から全く外れてしまうのが永遠の悩み♡

一級印章彫刻技能士
宇都宮印章業組合 組合長
栃木県印章業組合連合会 会長
公益社団法人全日本印章業協会 ブロック長

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