案外知らない職業の舞台裏。
近年は業界用語で「彫りっ放し」っと言って、PCだけで完成する印章も増えてきました。
対して鈴印は昔ながらの手作りにこだわっています。
そしてこれまで何度も書いてきましたが、PC彫刻に対して手彫りは写りが良いんです。
また店頭での捺印に関するお悩みやご相談も多くいただきますが、その中でも非常に多いのが「はんこを押すのが苦手なんですけど、プロの方ってどうされてるんですか?何かコツってあるんですか?」ってご相談。
これどちらも連動していて、私の考えは手彫りの印章は誰でも簡単に綺麗に押せますし、難しくさせているのは印章のせい。
じゃあ何がそんなに違うの?そんな疑問にスッキリお答えしちゃいたいと思います。
2015年5月13日に書いたブログですが、2018年10月12日にリライトしました。
はんこを綺麗に捺印を可能にする秘密兵器
結論から言いますと、ちょっとした道具を使って綺麗に写るようにしてます。
上の写真が「木賊(とくさ)」別字だと「砥草」と呼ばれるその道具。
木の板にサンドペーパーが貼ってある代物。
名前の由来は、古来から茎を煮て乾燥させて研磨の用途に用いた、トクサというシダ植物門トクサ科からきていますが、現在は諸事情により印章の面丁に適した特殊なサンドペーパーに置き換わっています。
で、実際にこれを使って印章の彫刻面を平らにしていくんですが、写真を見て色が違うのがわかるかと思います。
左が新しく、右へいくほど使い込んでいます。
ちなみに右の2つは、私が職人を始めてからずっと使っているから、もうかれこれ20年くらいお付き合い。
最初はザラザラしていますけど、使うほどにツルツルになってきます。
そしてそのツルツルがこれまた非常に大切になってきます。
トクサは段階に応じて使い分け
仕入れた材料は、どうしても表面が荒かったり、凹凸があったりします。
これは機械で切断していたり、また天然材のため多少の歪みは避けられない。
一見平らに見えるけど
拡大すると
結構ざらざらしています。
このざらざらが綺麗な捺印の邪魔になるんです。
捺印って想像以上に見事に印面を再現しますから、押す面が平らじゃなければ、いくら押してもざらざらの印影になっちゃいます。
それから水牛は、もっと大変。
「芯持ち材」と言われる最高級品は芯の部分が凹んでますから、これにそのまま彫っても当然そこが写らないワケです。
だからトクサを使って平らにするのです。
最初は新しいので大きく削り、最終的に使い込んだ細かいので磨き上げます。
ちなみに拡大するとトクサの目はこれだけ違います。
↑新しいトクサ
↑使い込んだトクサ
使い込んだトクサは、触ってもなんの抵抗もないくらいです。
イメージはツルツルの面で削っていうより、印面を磨き上げる感覚。
ちなみに「面丁(めんてい)」と呼ばれる作業なんですけど、詳しくは以下の手彫り印鑑彫刻全行程をご覧ください。
って言っても見てもらえないと思うので、作業風景のみ以下にGIF貼っておきます。
ちなみに上のリンクなら、YouTube貼っており、もっと綺麗な画質でご覧いただけます♡
最後に
これが簡単そうに見えて非常に難しい。
その証拠に、この面丁のみを行う機械が販売されているくらい。
あのですね、最初は平らにするつもりが丸くなっちゃったり、さらに凸凹になっちゃったりするんです。
そのうち手が痛くなっちゃって、やればやるほどに酷い状態に。
だからいつも先輩にやり直しを命じられ、それでもできずに結局代わってもらったりね。
でも慣れてくるとトクサに当てるだけで、印面の歪みや凹み、曲がっている角度まで分かるようになってくるんです。
そうして手作業で材料の状態を把握して、最高の写りを実現するために調整しているんです。
ま、結構専門的なお話で面白かったかどうかは分かりませんが、「へ〜」って思っていただけましたら幸いです。