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なぜ重要文書に押印が必要とされているか

  1. 印鑑の物話
  2. 604 view

2020年、新型コロナウイルスの世界的な大流行が始まりました。
突然のパンデミックによって世界中で多くの人々の生活が一変し、ビジネスや日常生活におけるデジタル化が急速に進みました。
その中で日本の伝統である「ハンコ」の使用が、テレワークの推進や効率化の障壁として注目されるようになりました。
当時のメディアではハンコの是非について様々な議論が交わされましたが、その後も重要文書における押印の必要性は依然として変わらず、社会やビジネスの様々な場面で重視され続けています。

今回はデジタル化が進む現代社会においても、なぜ重要文書に押印が必要とされるのか、その背景にある文化的また法的な理由を深掘りしていきます。
パンデミックを経験し変化を遂げた社会の中でハンコが持つ意義とは何か?その価値を再考してみましょう。

2020年4月23日に公開したブログですが、2024年3月9日にリライトしました。

重要文書に押印が必要とされている理由は、最高裁判の見解にあった

平成元年2月16日最高裁の民法968条自筆証書遺言における押印に関しての判例は、自筆証書遺言における押印の法的重要性を明確にしました。

この判例は、文書における押印の重要性を法的観点から明確にしています。
判例の下線部以下の記述の文脈から
自筆証書遺言では押印がないと無効と見なされる
となっていることがわかります。
これは、押印によって文書の正当性と、作成者の意志が確実に反映されていることの証明となるためです。

そうなんです。実際に最高裁でもハンコが押してないとダメだよって判例があるんですね。
これが重要文書にハンコが必要とされる大きな理由の具体例かと思われます。

判例を読み解く

では前述の判例から一部を引用します。

けだし、同条項が
自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の
自書とあいまつて遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書につい
ては作成者が署名した上その名下に押印することによつて文書の作成を完結させる
という我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解
されるところ、

遺言無効確認(最高裁判例 平成1年02月16日)より引用

上記の判例は以下のように読み解くことができます。

1.作成者の同一性を確保する

=押印によって、その文書の作成者が本人であることを確保する。

簡単な言い方をするなら、偽造防止です。
ハンコが押してある文書や印鑑自体を偽造すると重い罪に問われるため、押してあることでそれらを防ぐ効果があります。

2.作成者の真意を確保する

=押印によって、その文書の内容が作成者の意思に基づくことを確保する。

契約書にハンコを押せば、その契約に「同意した」ことを確認して表明したことになります。
例えば婚姻届にハンコを押せば、婚姻の気持ちがある表明になるのと同じです。
逆に考えれば、ハンコを押したんだから、文書の内容は分かってたよね?と言えます。
だから意思の証拠になります。

3.重要な文書については、作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完成させるという我が国の慣行ないし法意識

=日本においては署名捺印することは、伝統的な法観念・法文化。

上の1と2の目的であればサインでも十分なのかもしれませんが、法律の観念や文化として押印するとあるのが、日本における重要文書に押印が必要とされている理由になるのではないでしょうか。
それだけ長い歴史の中で信用を得るに値する印鑑にまつわるルールが制定され、維持され続けてきたんですね。

デジタル技術の進展と伝統的な印鑑の役割

デジタル化の波が押し寄せる中で、電子署名やデジタルドキュメントが広く利用されるようになりました。
しかし今なお特定の文書や法律的手続きにおいては押印が依然として重要な信頼性の証明として残っています。
この両立から分かることは、デジタル認証と伝統的な印鑑使用の間で互いに補完し合う形での進化です。

最後に

2020年に始まった新型コロナウイルスの世界的な大流行は、私たちの生活や働き方に大きな変化をもたらしました。
そこにはデジタル化の急速な進展も含まれますが、日本独自の伝統である「ハンコ」の役割についても新たな光が当てられました。
パンデミックがもたらした変化の波の中で、ハンコがいかにしてその価値を保ち続けているのか、その深い意義を再確認する機会を得ました。

今回の最高裁判例では、自筆証書遺言における押印の重要性が明らかにされました。
ここからわかったことは、ハンコが単なる形式を超えた日本の法制度と文化に根ざした深い意義を持つことを表しています。
重要文書における押印の必要性は、偽造防止、本人確認、意思の明確な表明という、これまでと変わらない価値を伝えています。

デジタル技術の進歩により、電子署名やデジタルドキュメントが日常的に利用されるようになりましたが、法律的手続きや公的文書におけるハンコの使用は、依然として重要な信頼性の証明としての役割を果たしています。
デジタル認証と伝統的な印鑑の間の補完的な関係は、未来に向けた新たな可能性を示唆しています。

今回、友人の弁護士のアドバイスをもらいつつ、日本のおける押印の文化的及び法的な重要性を理解することができました。
それによってハンコが現代社会においてもなお、重要な価値を持ち続けていることが明らかになりました。
パンデミックの影響で多くが変わった今でも、ハンコは日本のアイデンティティーの一部として、その役割を維持しています。
デジタル時代における伝統的な押印の役割を、私たちは再評価する必要があります。

みなさんは、ハンコとデジタル署名の将来、そして伝統と技術の調和についてどのように考えますか?
デジタル化が進む現代においても、ハンコの持つ意義と価値をどのように捉え、継承していくべきでしょうか?
皆さんの貴重な意見を伺い、日本の伝統とデジタル化の未来について、共に考えていきましょう。

 

鈴印

〜印を通してお客様の価値を高めたい〜

鈴木延之
代表取締役:株式会社鈴印

1974年生まれ。
A型Rh(+)

1932年創業、有限会社鈴木印舗3代目にして、現プレミアム印章専門店SUZUIN代表取締役。専門店として、印章(はんこ)を中心としたブログを毎日発信。本業は印章を彫る一級印章彫刻技能士。
ブログを書き出したきっかけは、私の親父が店頭で全てのお客様に熱く語っていた印章の価値や役割そして物語を、そして情報が散見する中で印章の正しい知識を、少しでも多くのみなさまに知っていただきたいから・・・
だったのに、たまに内容がその本流から全く外れてしまうのが永遠の悩み♡

一級印章彫刻技能士
宇都宮印章業組合 組合長
栃木県印章業組合連合会 会長
公益社団法人全日本印章業協会 ブロック長

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