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技術は一代限りのもの

久しぶりに気が重くなるようなお仕事の依頼を受けました。

はんこ店さんのお仕事って、ただはんこを彫るだけじゃないんです。
以前は、はんこ店さんってこんな風に言われていたようです。

はんこ店さんが書く文字って、物凄く上手いよね。

文字を書く職業っていうと、一般的には書家を思い浮かべると思うんですけど、実ははんこ店さんも文字を書く仕事です。
私なりに考えるその違いは、無限の中に文字を書くのが書家で、有限の中に文字を書くのがはんこ店さん。
手紙から半紙や条幅、はたまたライブパフォーマンスにあるような巨大な紙に全身でダイナミックに書く書家に対して、小さい丸やスペースの中に正確に文字を収めるはんこ店さん。

はんこ店さんの仕事の中には、手書きの文字をゴム印にするなんてのもあります。
ちなみに私たちが取得した一級印章彫刻技能士の試験は、会社の丸印を全て手作業だけで彫りあげる課題と、住所印と呼ばれる住所・社名・電話番号のゴム印の判下を書く課題があり、いずれも筆文字が必須なんですね。
住所印は押す場所にある程度の制限がありますから、寸分狂わぬサイズの中に綺麗に文字を並べて書くのが特徴。
つまり決められた有限の中に文字を書くのがはんこ店さんの仕事なんですね。
だからそれはまさに「判で押したよう」な文字が書けるわけです。

そしてこの仕事がいつも私を悩ませます。

 

技術は一代限りのもの

同じものを大量に作るのが工業製品なら、2つとして同じものができないのが手作り製品。
手書きの筆文字などは、この手作り製品に属しますね。
同じ人間が作っていれば当然雰囲気は統一されますけど、全く完璧に同じものを作るのはその時の感覚に左右されますから、かなり難しいです。
私たちの世界でも本当の超一流は、何も見ずに全く同じものを2つ作れるなんて逸話も聞きますが、一般レベルではそれは不可能。
そんな感じで一人の人間に依存していても難しい手作りのコピーですが、人が変われば更に困難になります。

私自身は親父から鈴印の文字を、長い年月をかけて叩き込まれました。
ただその間にも自身の経験や好みから、自分ならもっとこうする的な欲なんかも当然あります。
とはいえ文字はお店の個性ですから、やはり踏襲しつつオリジナルを加えるべきとの判断で、できる限り同じようにを意識していました。
って、頭で分かっていてもなかなかそうはいかないのが悲しいところ。
そしてその差異を、その都度真っ向から否定されて頭にくる毎日(笑)

実際に彫刻して作る実印などはかなり近づいたと自分も親父も感じましたが、結局文字だけはどうにもならなかったですね。
そもそも文字は個人差がかなりありますし、そこに好みが混ざってくる、そして何より力量の差が大きく関わってきますから。
よく食べ物などで「代が変わって味が変わった」なんて話を聞きますが、その理由もなんとなく分かりますよね。
つまりどうあがいても、技術は一代限りなんです。

 

文字は100%継承できない

今回ご依頼の手書き文字のゴム印も、新規のお客様からのならさほど問題ないんです。自分らしくできますから。
ただ問題は、過去からの継承。
祖父も親父も抜群に文字が上手かった・・・

「以前お父様にこちらのはんこの文字を書いていただいたんです。だいぶ傷んじゃったんで同じのと、あと追加でいくつかお願いします。」

 

振り返ると、私自身が後を継いだ時に一番困ったのがこの文字でした。
そうじゃなくても個性が出る文字。しかも技術の向上はこなした数と年月の掛け算ですから、40年続けてる技を10年でコピーするのは不可能。
私も最初は親父の書いた文字を完全にコピーできるよう毎日毎日練習をしましたが、すればするほどに萎縮して偽物みたいになっちゃう。
並べると気持ちが悪いほどに下手なんです。
そのために一度親父の文字の意識を解いて、自分らしさを追求することにしました。
すると今度は自分なりのやりやすさを見つけて、見る見る上達するのが自分でも分かりました。
とはいえひたすら続けたコピーも血肉になってますから、気がつくとなんとなく近い雰囲気でもあったりする不思議。

確かに祖父と親父の字も違ってました。
つまりこの「文字」に関しては、それぞれの職人色が思いっきり反映されるため、またその都度内容も違いますから、どれだけ意識しても100%合わせることは不可能だと、私は考えます。
もしかすると器用な方ならできるかもしれませんが。

 

最後に

多分ほとんどのみなさんが、そこまで意識してご注文されているわけじゃないと思います。
だからあくまで自意識過剰の世界。
なんですけど、先代の遺した財産は私にとてつもないプレッシャーを与えてくれます。
よく「手仕事には終わりがない」なんて言葉も耳にしますけど、高みを目指す以上、満足するゴールは一生見えないのかもしれません。

そしてそれに負けそうになり母に愚痴ると毎回このように諭されます。

お父さんもよく「じいちゃんの字には敵わない」って言ってたよ。
ただ私は、とっくに超えてたと思ってたけどね。
まあ頑張って。

まあそんなわけで、今日も頑張りたいと思います。

 

 

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